地方で働きながらの不妊治療!満身創痍

30代後半、地方で働きながら取り組んだ不妊治療の記録です。

12.着床前診断のこと-①決断

今回の内容については、様々な考えから受け入れられないという人もいるかもしれません。不快になった方がいらっしゃればどうかご容赦を。

 

 着床前診断という言葉をご存知だろうか。

不妊治療の体外受精を経験した人であれば、恐らく聞いたことはあるだろう。言葉の通り、体外受精で着床前の受精卵(初期胚or胚盤胞)の細胞を調べ診断を下すこと。

ありていに言えば着床前の受精卵の異常を調べる検査のことである。そしてその異常というのは、一部の遺伝病だったり染色体異常を指す。遺伝病の検査をPGD、染色体の検査をPGSというらしい。そして、一般的にはこの検査で異常無しとされた卵子を子宮に移植して着床を待つ、という流れになる。

 

 この検査は生命倫理に大きく関わることから、国際的にも医学界のみならず、科学界、宗教界、フェミニズムなど、様々な視点から議論されている。

そして、反対派の中で広く言われているのは『命の選別』につながるということである。

確かに、受精後の胚を調べ、異常が無いとされたものを移植し、異常有りとされたものは移植を避けられ廃棄されるケースが圧倒的に多い中、命の選別と言われてしまっても仕方のない部分もある。

『命は神の領域であるため人間が介入するべきでは無い。』だとか、『優生思想的である。』

など、様々な立場・視点から意見があってしかるべきものだろう。

しかし、日本ではこの診断の可否についての法律が無く、日本産婦人科学会が、『既に何度も流産を経験した人や学会の審査にかなう遺伝子疾患がある人のみ対象とし、事前に認可を受けなければいけない。という、指針(もちろん法的拘束力は無い)を出し、実施を実質的に制限する形となっている。しかし一方で、不妊治療において、この技術は多くの不妊治療患者を救う側面を持つのである。

 

 着床前診断、特に染色体検査(PGS)の不妊治療的面での利点とされているのが、流産の確率を下げ、母体の肉体的精神的な負担を和らげることができるという点である。

一般的に流産の一番の原因は胎児自体の染色体異常によるものであるとされている。染色体異常で一番有名なのが21番目の染色体が一本多いことで起こるダウン症候群だが、この場合でも80%近く(※所説有り)は流産や死産となってしまい、無事生まれてこれる可能性は非常に低い。

そして、その他の染色体異常ではほぼ流産や死産となってしまい、たとえ非常に低い確率で生まれてくることが出来たとしても長くは生きられないケースがほとんどなのである。染色体異常の中生まれてきた命は奇跡であり本当に尊いものであると思う。

ただ一方で、着床してもほぼ確実に流産・死産となる染色体異常が確実に存在することも忘れてはならない。

そして、そんな受精卵を、不妊治療で摩耗している母体に検査をさせずに移植し続けることを強制するのは、非常に酷なことではないだろうか。

身体・精神・時間・資金の面でかなりの負担を負って体外受精に臨み、無事着床に至ったとしてその後流産・死産となった時の母体の精神的・肉体的な苦痛はいかばかりだろう。そして母体は胎児だけではなく、不妊治療で重要となる時間さえも失ってしまうのである。

 

 着床前診断のもう一つのメリットが、妊娠後に胎児に異常が見つかった場合の中絶を事前に回避できるという点である。

実際日本では長く一定期間内の中絶が認められており、医学の進歩で胎児の異常を調べる様々な検査が存在している。中絶の是非についてはまた別の議論となるが、妊娠後の検査で異常が見つかった場合、中絶に至るケースが多々あるというのが今の日本の現実である。

 

 染色体異常や遺伝子の異常は、受精卵の見かけで判断するグレードとは関係無いため、細胞を調べてみないと分からない。そして、様々な事情・理由で、この検査の実施を希望している人を制限することは本当に妥当なことなのか?

 

 結論から言うと、私は2回目の体外受精の際、染色体異常の着床前診断(PGS)を受けた。

地方で働きながらの不妊治療に限界を感じ、心身共に消耗しきっていたことや、最初の体外受精の際経験した、移植後も続く服薬や座薬等の苦労のことを思うと、移植して着床しても、どこかの段階で流産・死産してしまうかもしれない受精卵を子宮に戻すのはどうしても抵抗があったからだ。

様々な意見があることは承知していたが、受診していたクリニックでの検査が可能であったことから実施の決断に至った。

 

次回は私が受けた着床前診断の詳細について記載します。